婦人科における
腹腔鏡下手術
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Gynecologic Laparoscopic Surgery
Laparoscopic Surgery in Gynecolog
はじめに
 

1958年、H.Frangenheimらによって石英棒による間接光の伝達法が考案されて以来、 腹腔鏡は今日の気腹装置、 グラスファイバ−、CCDなどの技術革新により飛躍的に発展普及し、 その目的も診断目的から治療目的へと著し く変わってきております(写真1)。 これまで婦人科領域では、主に不妊症領域で用いられていましたが、最近では子宮筋腫、 卵巣嚢腫、子宮外妊娠などの悪性腫瘍を除 くほとんどの良性疾患がその対象になってきております。 とくに1994年4月より保険診療(癒着剥離術、付属器腫瘍 摘出術、卵巣部分切除術、子宮外妊娠手術、子宮内膜症 病巣除去術)が認められたことから本格的な腹腔鏡下手術 が始まろうとしております。

写真1:腹腔鏡下手術
    ここでは、婦人科領域における腹腔鏡下手術の適応・禁忌ならびにその術式である癒着剥離術、付属器腫瘍摘出術、 子宮外妊娠手術ならび に、腹腔鏡下手術の応用で今後、 最も頻回に用いられると考えられる腹腔鏡下腟式子宮摘出術 (LAVH、 LaparoscopyーAssisted Vaginal HysterectomyやLH、 Laparoscopic Hysterectomy) についてお話しいたします。

 

  腹腔鏡下手術の適応と禁忌
 
   

われわれは、この12年間に約800例の腹腔鏡を施行してきました。 その適応もCCDなどの周 辺機器の開発によって著しく拡大されました。 その結果、1994年4月より癒着剥離術、付属器腫瘍摘 出術、卵巣部分切除術、 子宮外妊娠手術、子宮内膜症病巣除去術の5項目が保険診療に認められ、 婦 人科領域では、悪性疾患を除く大部分の良性疾患が対象となるものと考えられております。 婦人科で の腹腔鏡検査の適応を表1に紹介致します。 腹腔鏡の禁忌は、周辺機器の開発、改良によって大きく 変わりました。 たとえば従来腹腔鏡そのものが禁忌であった手術歴のある患者や腹腔内癒着がある症 例でも Open Laparoscopy によって、また横隔膜ヘルニアや心疾患、呼吸器疾患に対しても腹腔内へのガス注入による気腹法に代わる吊り上げ式によって腹腔内圧が上がらないことから禁忌でなくなって おります。 したがって腹腔鏡下手術の禁忌は、麻酔、手術に耐えられない心不全、呼吸不全、 出血性 素因などがある患者の、いわゆる手術そのものの適応によるようになりました。 しかし腹腔鏡下手術 は、従来の開腹術に比しMinimally Invasive Surgery としての手術侵襲も少ないことから、開腹術の禁忌 であった症例も腹腔鏡下手術によって手術が可能となる場合もあります。

  表1
 

婦人科における
腹腔鏡検査の適応

 

 

 

 

 

 

 

(下線は腹腔鏡下手術の保険診療項目)

1. 診断的腹腔鏡

1) 卵管不妊のの診断
   (→腹腔鏡下手術)
2) 子宮外妊娠の早期診断
   (→腹腔鏡下手術)
  とくに非定型的症状を伴う子宮外
   妊娠の診断
3) 急性腹症の鑑別診断
   (→腹腔鏡下手術)
4) 下腹部腫瘤の鑑別診断
   (→腹腔鏡下手術)
5) 下腹痛の鑑別診断
   (→腹腔鏡下手術)
6) 子宮内膜症診断
   (→腹腔鏡下手術)
7) 卵巣腫瘍の鑑別診断
   (→腹腔鏡下手術)
8) 排卵障害の卵巣生検
   (→腹腔鏡下手術)
9) その他

2. 腹腔鏡下手術

1) 骨盤内癒着
   癒着剥離術
2) 子宮筋腫
   膣式子宮全摘術(LAVH)
   子宮全摘出術 (LH)
   筋腫核出術
3) 付属品腫瘍(卵巣嚢腫)
   付属品腫瘍摘出術
   卵巣部分切除術
4) 子宮外妊娠
   子宮外妊娠手術
5) 子宮内膜症
   子宮内膜症病巣除去術
   仙骨子宮靱帯切断術
6) 不妊症領域:卵管性不妊
   腹腔鏡下卵管形成術
7) 避  妊
    卵管結紮術

 

婦人科における
腹腔鏡下手術
 

 表1のごとく婦人科の良性疾患のほとんど適応となります。 ここでは、日常診療で最も頻回に用い られる癒着剥離術、付属器腫瘍摘出術、 子宮外妊娠手術ならびにその応用である子宮全摘出術について述べます。

  1)癒着剥離術−卵管形成術−
 
写真2:卵管形成術
(1)癒着剥離術
写真3:卵管形成術
(2)卵管留症
写真4:卵管形成術
(3)卵管開口術
 

 癒着剥離術は、腹腔鏡下手術で最も基本的な術式であります。 癒着剥離に用いる手段は、電気メス、各種レ−ザ−メス、 エンドコアグレ−タ−などがあります。それぞれ長所、短所がありますが、 要は術者が慣れたものを使用することが最良です。写真2から4は、 卵管性不妊に行 った腹腔鏡下卵管形成術で癒着剥離術と卵管開口術を行った症例です。 写真2は、子宮卵管癒着のマイクロ鋏刀による癒着剥離術で、 写真3は、癒着剥離術後の卵管所見であり卵管留症を 認めます。 写真4は、卵管留症に対して行った卵管開口術後の所見で卵管粘膜はほぼ正常に保たれております。 なお癒着剥離術は、LAVHや付属器腫瘍摘出術の際によく行われます。子だけを精液中から取り出し人工授精に用います。

  2)付属器腫瘍摘出術
 
写真5:卵巣嚢腫
 

 本法は、卵巣の良性疾患に行う腹腔鏡下手術であって、卵巣嚢腫が主な適応となります。 したがって悪性の疑いがある場合には、腹腔鏡下手術の適応から除外します。 卵巣嚢腫摘出に際し原則として腫瘍を破綻させないか、 破けても腹腔内に内容物を流出させないようにこころがけます。 付属器腫瘍摘出術の術式は、患者が生殖年齢にあるのか、ないのか、 すなわち卵巣を残す必要があるのか、ないのかによって異なります。 健状卵巣を残す場合は、卵巣嚢腫の内容を吸引してから嚢腫を摘出する場合 と、嚢腫壁を破かないまま摘出する場合があります。 また嚢腫摘出に際し、 嚢腫を腹腔内で処理する腹腔内処理法とトラーカル穿刺孔より嚢腫の袋を体外に出して から卵巣嚢腫の被膜を剥離する腹腔外処理法があります。 後者の方が、時間的にも早く、簡単です。 一方、卵巣腫瘍を卵巣ごと切除する方法は、 卵巣を残す方法に比し 非常に容易であります(写真 5)。 End-GIAやエンドル−プを用いて腫瘍頚部を切断、 腫瘍をビニ−ル袋に入れてからトラーカル孔より対外に取り出します。

  3)子宮外妊娠手術
 
 

音波断層診断や高感度妊娠診断薬ならびに腹腔鏡診断によって早期診断が可能になったことからも急性腹症である子宮外妊娠にも腹腔鏡下手術が可能となりました。 腹腔鏡下子宮外妊娠には、卵管切除術、卵管温存手術(部分切除術、縱切開術、妊卵除去術)があります。将来児を希望しない場合や卵管温存手術が不可能な場合には、 患側卵管の摘出を行いますが、本法 は、容易かつ時間的にも短時間ですむことから、 開腹術に比しはるかにMinimally Invasive Surgeryであるといえます。

  4)子宮全摘出術
 
参考:子宮全摘出術  

子宮筋腫に行う子宮全摘出術は、日常最も多く行う手術であり、 その摘出には、2つのルート があります。 すなわち開腹術によるものと経腟的に行う子宮全摘出術とがあります。 腟式子宮 摘出術は、開腹術による子宮全摘出術に比べ創部痛が少ないことから、 術後の苦痛も少なく、 しかも回復が早いことから入院期間も短く、 まさにMinimally Invasive Surgeryの代表といえる。 この子宮摘出を開腹術にするのか、 経腟的に行うのか、その選択は、子宮の大きさ、子宮の可 動性の有無、癒着の有無、 手術歴の有無、分娩歴の有無などを参考に術式を決めます。 一般に腟式子宮摘出術の条件を満たす症例は、子宮全摘出術の8〜10%とされている(表2)


  表2
 

膣式子宮摘出術の
適応

大きさ
卵大
手挙大
小児頭大
大人頭大
手術歴
有り
可動性
良好
不良
癒着
軽度
中程度
強度
分娩歴
術式
膣式8%
開腹術92%
LAVH
70〜80%
 
・LAVH : Laparoscopy-Assisted Vaginal Hysterectomy

  (1)腹腔鏡下子宮全摘出術
 
   

LH(Laparoscopic Hysterectomy)は、腹腔鏡下手術によって子宮全摘出術を行う術式で、 原則的に経腟的操作は行ないません。 LHの術式は、まず腹腔鏡によって骨盤内を観察し、癒着があれば、これを剥離し、 付属器腫瘍や靭帯内子宮筋腫などを認めればこれらを腹腔鏡下手術によって処置してから、 子宮摘出の ための付属器の切断 (円靭帯の切断、卵巣動静脈の切断;卵管・卵巣固有靭帯または骨盤漏斗 靭帯の切断)、 膀胱子宮窩・ダグラス窩腹膜の開放、仙骨子宮靭帯の切断、 子宮動脈の切断、 前/後腟円蓋を開放し、子宮を腟管より分離摘出、 腟断端縫合し手術を終了します。各種靭帯 ならびに血管の切断には、 レーザー、縫合法、電気凝固法、End-GIAなどを用います。

  (2)腹腔鏡下腟式子宮摘出術
 

写真6:摘出された
    分割子宮筋腫

写真7:腹壁吊り上げ式

 

LHが、子宮全摘出術の全てを腹腔鏡下に行うのに対し、LAVH
(Laparoscopy−Assisted Vaginal Hysterectomy)は、経腟的に可能な操作は経腟的に行い、経腟的に出来ない操作、すな わち腹腔内の癒着、付属器腫瘍、靭帯内子宮筋腫などを腹腔鏡下手術によって処理し、 その 後、経腟操作に移り子宮を摘出する方法です(表2)。われわれは、LAVHの腹腔鏡下手術 の適応をさらに拡大する目的で腹腔鏡下に卵巣動脈 (骨盤漏斗靭帯)を遮断することによって大きな子宮筋腫(超成人頭大まで) を経腟的に摘出する方法を行なってきました。すなわち腹腔鏡下に卵巣動脈を、 経腟的に子宮動脈を結紮切断することによって子宮への血行を遮断してから経腟的に子宮筋腫を分割摘出する方法であります。この方法では、従来開腹術の適応であった子宮摘出術の多くが経腟的に摘出できることから 腟式子宮摘出術の大幅な適応拡大となります(表2)。またLAVHの利点は、直視下に腹腔内操作を行なってから経腟的操作に移ることから、 従来の盲目的な腟式子宮摘出術より安全性の高い腟式子宮摘出術が可能となることであります。 LAVHの術式については、どの段階で経腟的操作に移行するかは、施設によって異なるが、 われわれは、経腟的操作にて前/後腟円蓋を開放、仙骨子宮靭帯の切断、子宮動脈の切断を行い、 子宮筋腫を分割摘出する方法でLAVHを行っております(写真6)。 またLAVHならびにLHで問題となることは、腟管からの気腹ガスの洩れでありますが、 気腹ガ ス方式にかわってオリジン社の吊り上げ方装置を用いることによって問題を解決しております (写真7)。

 

  表3
 
LAVHの手術術式  

1)腹腔鏡下手術
  (1) 腹腔鏡検査 → 骨盤内観察
  (2) 腹腔鏡下手術:癒着剥離術、付属器腫瘍摘出術
           卵巣部分切除術、子宮内膜症除去術
  (3) 卵巣動静脈の切断:卵巣・卵巣固有靱帯の切断
              または骨盤漏斗靱帯の切断
  (4) 円靱帯の切断
  (5) 仙骨子宮靱帯の切断
  (6) 膀胱子宮窩腹膜・ダグラス窩腹膜の開放

2)経膣的手術
  (1) 前膣円蓋の開放、後膣円蓋の開放
  (2) 子宮動脈の切断
  (3) 経膣的子宮摘出(分割)


  表4
 

LAVHの
適応

大きさ
卵大
手挙大
小児頭大
大人頭大
手術歴
有り
可動性
良好
不良
癒着
軽度
中程度
強度
分娩歴
術式
膣式8%
開腹術92%
LAVH
70〜80%
 
・LAVH : Laparoscopy-Assisted Vaginal Hysterectomy

 

  考察
 
参考写真  

 腹腔鏡下手術は、Minimally Invasive Surgeryとしての理想的な手段でありますが、限られた器具を用 いて開腹術と同じ作業を行なわなければなりません。手術の基本は開腹術によって修得できるもので、腹腔鏡下手術は、その応用であることを忘れてはなりません。 腹腔鏡下手術を始めるに当たって は、開腹術による手術を十分熟練し理解していることが原則です。 われわれは、腹腔鏡下手術の適応とその限界について検討するために婦人科良性疾患に対し 一定期間 (2か月間)に執刀した44例に可能な限り腹腔鏡下手術(子宮外妊 娠、卵巣嚢腫、 癒着剥離術ならびにLAVH)を試みました。その結果 33例、 75%が腹腔鏡下手術が可能でありました。内訳は、腟式子宮 全摘出術14例 (超成人頭大の筋腫、靭帯内子宮筋腫、骨盤内癒着のあ る子宮筋腫、手術歴のある子宮筋腫、 未産婦子宮筋腫など)、子宮外妊娠根治術3例、卵巣嚢腫摘出術2例、癒着剥離術等12例、 卵管端々吻 合術1例、腹膜移植による造腟術1例であり、術後経過に異常は認めませんでした。 なお術後の経過は、すべてが良好で合併症は認めていませ ん。開腹した症例は、11例、 25%で、その適応は、子宮頚癌3例、 悪性が疑われた卵巣腫瘍2例、腟瘻等の難手術6例でした。 今後、腹腔鏡下手術の適応については、 種々の条件を加味し適切なる適応疾患を選別しなけらばなりませんが、 いずれにしても婦人科の良性疾患の多くが適応となることが判明しました(表4)。 また腹腔鏡下手術による合併症は、 ややもすると致命傷となりうることから開腹術より徹底した管理が必要となります。 腹腔鏡施行手技のトラブルは、血管損傷による出血です。腹腔鏡の際に起こる 大血管損傷は、 大動脈または骨盤内大血管の損傷であることから、 一時を争って開腹し止血操作を行 なう必要が生じます。 この際血管縫合が必要となることが多いので普段よりトレーニングしておく必要があります。 また腹腔鏡の最も多い合併症は、皮下気腫とガス塞栓です。 後者は致命傷となりうる事故でありますが腹腔鏡検査の基本を守って行なえば事故は防げます。

  おわりに
 
最近の不妊症の動向
卵管性不妊
婦人科における
腹腔鏡下手術

体外受精の概要
人工受精の概要
 

 婦人科の良性疾患のほとんどが腹腔鏡下手術の対象になると考えられることから 今後著しく普及す るものと考えられます。しかし内視鏡下手術は、 まだまだ完成された手術法ではなく器具の改良、開 発等、残された課題も大きい。 腹腔鏡下手術を行なう場合の心得として、この道の先駆者であるゼム 教授は、 ”Der endoskopische Abdominalchirurg ist bestrebt, alle endoskopischen Eingriffe so durchzufuehren, wie dies auch per Laparotomiam die Regel ist !”と強調しています。 腹腔鏡下手術を始める心得えとして開 腹術による手術手技を十分理解、 修得していること、手術の本質は開腹術のそれと同等であることを 忘れてはなりません。

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